たっぷり出汁をからめてちゅるっと食べられる、夏バテや二日酔いにもおすすめの鳴ちゅるうどん。“鳴ちゅる”というのは、最近できた造語です。昔は、そんな呼び名はなかったけれど、細めの麺に出汁をたっぷりからめて食べるうどんは、この町が発祥だと言われています。昔、この地には塩田があって、そこで働く浜子たちの間で、小腹がすいた時、おやつ代わりにも食べれる消化によいうどんが喜ばれました。また、この地では昼間、男たちは塩田で働き、女たちは家庭でうどんを打っていたそうです。力のない女性が打ったから、コシの弱い細麺になったという説もあります。
この地で何か商売をしようと考えた時、うどんを思いついたのも偶然ではないように思います。父親が、趣味でうどんを打っていた影響もあるのですが、この地に生まれ育った者の宿命というと大げさですが、そんなものを感じています。
昔は、各家庭でうどんを打っていたし、それをしなくなってからも、近所に何軒かうど屋があって、毎日のように食べていたという記憶があります。そのうどんが、とにかく美味しかったんです。美味しかったけれど、どんな味だったかはわからない。大人になってからも、うどんは好きであちこち食べ歩きをしました。でも、その美味しさに勝るものにはたどり着けなかったように思います。
自分がうどんを作るにあたり、つねにその味が目標みたいにあります。でも、その味を越せたかどうかは、今だにわかりません。具体的にその味は思い出せないけれど、それを口に入れたときの感じは、覚えているような気がします。手打ちにこだわっているのも、その食感やのど越しみたいなものを自分なりに再現しようとしているのかもしれません。
化学調味料が入っていると、後味でわかります。うどんを作り始めた時、わが子が小さかったこともあり、天然のものにこだわりました。出汁になる材料の種類はもちろん、その組み合わせや割合など、いろいろ研究しました。今はいりこやこんぶ、あじなど五種類の国産天然素材を使って、毎日出汁をつくっています。
ただ毎日、同じ味にするのが思ったより難しくて苦労しています。その日の体調によっても味が変わってきます。麺は前々日、店があがってから打ちはじめ、二晩寝かせたあと、毎朝五時に起きて、その日の分を切っていきます。出汁は前日から仕込みに入ります。毎日、同じ作業を淡々とこなしていく、そうすることが常に変わらない“とばうどん”を提供する秘訣なのかもしれないと思っています。